真ん中が、
長い。
糖質制限とハイカーボ、両極のあいだで、もっとも長生きするのは「真ん中」だった。Seidelmann SB が Lancet Public Health 2018に発表したのは、430,000人を統合した U字カーブ。最低点は総エネルギーに占める糖質比率50〜55%。今号は、極端を避けて谷底を歩くという、退屈にして最強の処方を読む。
“Virtue lies in the mean.”
Lancet Public Health 2018年に出た Seidelmann SB のメタ解析は、米国 ARIC コホート15,428人を主軸に、8カ国の追加コホート(北米・欧州・アジア)を統合し、432,179人の食事と全死亡率の関係を解析した。糖質比率と全死亡率はきれいなU字を描き、最低点は総エネルギーに占める糖質比率の50〜55%だった。
それより低くも高くも、死亡率は上がる。40%未満の極端な低糖質、70%超の極端な高糖質、そのどちらもU字の上り坂に位置する。「ほどほど」が単なる退屈な選択ではなく、40年の追跡が示した最善の選択であるという、薄味ながらも強い結論である。
He who fears all things and never stands up against anything comes to be a coward; he who fears nothing, but goes at everything, comes to be rash. The habits of perfected Self-Mastery and Courage are spoiled by excess and defect, but preserved by the mean state.
アリストテレスが「徳とは中庸である」と書いたのは紀元前4世紀である。それから2,400年、Seidelmann が430,000人で示したのは、栄養学的にも同じだった。極端は美しいが、長くない。退屈な真ん中こそ、もっとも長く立っていられる場所である。
Seidelmann のメタ解析が同時に示したのは、低糖質の害は「何で糖質を置き換えるか」によって大きく変わるということだった。動物性脂肪・動物性タンパク質で埋めた群は、もっとも全死亡率が高かった。一方、植物性脂肪(オリーブ油・ナッツ)・植物性タンパク質(豆・全粒穀物)で置き換えた群は、害がほぼ消えた。
地中海食、プラネタリーヘルス食、DASH 食。これらが長生きする理由が、ここに集約される。糖質を減らすこと自体が悪なのではなく、その置き換え先の選び方が、寿命の差を作る。極端を選ぶなら、植物性で。それが、U字の左肩で立っているための条件である。
南禅寺の門前、湯豆腐の店で昼。豆腐、青菜、ご飯少なめ、味噌汁。これで1食800kcal、糖質比率は計算しなくてもU字の谷底にいる。退屈な選択は、たぶん、最も長い選択である。
栄養の言説は、極端な物語に弱い。糖質制限は短期間の体重減少が劇的で、ビフォーアフターの写真が映え、SNS で拡散しやすい。ハイカーボは「ご飯は身体にいい」という日本の文化と結びつき、長く続くナラティブになっている。
だが Seidelmann が示したのは、短期間の効果ではなく長期の死亡率である。1年の体重と、25年の寿命は別の話で、後者でしか測れない真実が、栄養学にはある。極端は短期で勝ち、中庸は長期で勝つ。U字の谷底は、ストーリーとしては退屈だが、データとしてはもっとも強い場所である。
“The longest distance between two points is a shortcut.”
U字の谷底を皿の上に翻訳すると、シンプルになる。ご飯(あるいはパスタ・パン・芋)が手のひら1杯、野菜が両手分、タンパク質源が手のひら一枚(鶏むね・魚・豆腐)。これで総エネルギーに占める糖質比率は50〜55%の周辺に落ちる。
脂質は、オリーブ油・ナッツ・魚由来のオメガ3を中心に。動物性脂肪を完全に排除する必要はないが、ベースは植物性脂肪に置く。これだけのルールで、Seidelmann のU字の谷底に、毎日のように戻ってこられる。
アリストテレスが「徳は中庸にある」と書いたのは紀元前。Seidelmann が430,000人で示したのは、栄養学的にも同じだった。極端は短く、退屈は長い。今夜、ご飯をひと口ぶん残すか、ひと口ぶん足すか。U字の谷は、たぶん、その小さな調整のなかにある。