FEATURE № 04 — THE NUTRITION ISSUE
The U-shape,
and its valley.
Plate VI — 13:02 p.m.
NUTRITION — CARBOHYDRATE

真ん中が、
長い。

糖質制限とハイカーボ、両極のあいだで、もっとも長生きするのは「真ん中」だった。Seidelmann SB が Lancet Public Health 2018に発表したのは、430,000人を統合した U字カーブ。最低点は総エネルギーに占める糖質比率50〜55%。今号は、極端を避けて谷底を歩くという、退屈にして最強の処方を読む。

Virtue lies in the mean.
— Aristotle, Nicomachean Ethics, Book II
「徳は中庸にある」──アリストテレス
穀物と豆と野菜。U字の谷底に立つ、退屈な真ん中。Plate II
01
THE U-SHAPED CURVE
U字、その地形
ARIC コホート15,000人+8カ国メタ解析。総人口432,000の食事と寿命の図。

Lancet Public Health 2018年に出た Seidelmann SB のメタ解析は、米国 ARIC コホート15,428人を主軸に、8カ国の追加コホート(北米・欧州・アジア)を統合し、432,179人の食事と全死亡率の関係を解析した。糖質比率と全死亡率はきれいなU字を描き、最低点は総エネルギーに占める糖質比率の50〜55%だった。

それより低くも高くも、死亡率は上がる。40%未満の極端な低糖質、70%超の極端な高糖質、そのどちらもU字の上り坂に位置する。「ほどほど」が単なる退屈な選択ではなく、40年の追跡が示した最善の選択であるという、薄味ながらも強い結論である。

PHILOSOPHY — Doctrine of the Meanc. 340 BC
アリストテレス『ニコマコス倫理学』第2巻· Aristotle, Nicomachean Ethics, Book II
He who fears all things and never stands up against anything comes to be a coward; he who fears nothing, but goes at everything, comes to be rash. The habits of perfected Self-Mastery and Courage are spoiled by excess and defect, but preserved by the mean state.

アリストテレスが「徳とは中庸である」と書いたのは紀元前4世紀である。それから2,400年、Seidelmann が430,000人で示したのは、栄養学的にも同じだった。極端は美しいが、長くない。退屈な真ん中こそ、もっとも長く立っていられる場所である。

02
WHAT REPLACES THE CARBS
低糖質をやるなら、植物性で
U字の左肩は、何で置き換えるかで害が消える。

Seidelmann のメタ解析が同時に示したのは、低糖質の害は「何で糖質を置き換えるか」によって大きく変わるということだった。動物性脂肪・動物性タンパク質で埋めた群は、もっとも全死亡率が高かった。一方、植物性脂肪(オリーブ油・ナッツ)・植物性タンパク質(豆・全粒穀物)で置き換えた群は、害がほぼ消えた。

地中海食、プラネタリーヘルス食、DASH 食。これらが長生きする理由が、ここに集約される。糖質を減らすこと自体が悪なのではなく、その置き換え先の選び方が、寿命の差を作る。極端を選ぶなら、植物性で。それが、U字の左肩で立っているための条件である。

A simple ritual / 日々の作法
動物性で
全死亡率↑(最悪)
植物性で
害ほぼ消失
オリーブ油
推奨される脂肪源
ナッツ・豆
推奨される代替源
VIGNETTE — 京都、湯豆腐の店

南禅寺の門前、湯豆腐の店で昼。豆腐、青菜、ご飯少なめ、味噌汁。これで1食800kcal、糖質比率は計算しなくてもU字の谷底にいる。退屈な選択は、たぶん、最も長い選択である。

— 編集部
麺と汁、ご飯と漬物。皿の上の中庸を探す、毎日の手つき。Plates VI–VII
03
THE PULL OF EXTREMES
なぜ、極端が魅力的なのか
糖質制限の物語、ハイカーボの物語。物語は強く、エビデンスは弱い。

栄養の言説は、極端な物語に弱い。糖質制限は短期間の体重減少が劇的で、ビフォーアフターの写真が映え、SNS で拡散しやすい。ハイカーボは「ご飯は身体にいい」という日本の文化と結びつき、長く続くナラティブになっている。

だが Seidelmann が示したのは、短期間の効果ではなく長期の死亡率である。1年の体重と、25年の寿命は別の話で、後者でしか測れない真実が、栄養学にはある。極端は短期で勝ち、中庸は長期で勝つ。U字の谷底は、ストーリーとしては退屈だが、データとしてはもっとも強い場所である。

The longest distance between two points is a shortcut.
— Charles Issawi (1973)
「二点間の最長距離は、近道である」
04
DESIGNING THE PLATE
皿の上の、設計
ご飯は手のひら1杯、野菜は両手分、タンパクは手のひら一枚。

U字の谷底を皿の上に翻訳すると、シンプルになる。ご飯(あるいはパスタ・パン・芋)が手のひら1杯、野菜が両手分、タンパク質源が手のひら一枚(鶏むね・魚・豆腐)。これで総エネルギーに占める糖質比率は50〜55%の周辺に落ちる。

脂質は、オリーブ油・ナッツ・魚由来のオメガ3を中心に。動物性脂肪を完全に排除する必要はないが、ベースは植物性脂肪に置く。これだけのルールで、Seidelmann のU字の谷底に、毎日のように戻ってこられる。

05
THE NUMBERS
糖質の統計
数字で読む、U字の地形。
50-55%
U字の谷底(糖質比率)
<40%
極端な低糖質(高リスク)
>70%
極端な高糖質(高リスク)
432,179
Seidelmann メタ解析総人口
25yr
ARIC コホート追跡年数
2018
Lancet 出版年
誰かと囲む食卓。長く続くものは、たいてい、こういう景色のなかにある。Plate VIII
CODA — 編集後記

アリストテレスが「徳は中庸にある」と書いたのは紀元前。Seidelmann が430,000人で示したのは、栄養学的にも同じだった。極端は短く、退屈は長い。今夜、ご飯をひと口ぶん残すか、ひと口ぶん足すか。U字の谷は、たぶん、その小さな調整のなかにある。

— 編集部 / おかもん先生