もう、
吸収されない。
「タンパク質の取りすぎは腎臓に悪い」は、健康成人ではエビデンス薄。Devries MC が J Nutr 2018 で示したのは、高タンパク食で腎機能が悪化するという主張のエビデンスは弱い、ということだった。本当の取りすぎとは、効果がゼロになるという意味である。1.6g/kgを超えた分は、エネルギー化されるか、尿素として排泄される。今号は、過剰の沈黙について。
“Sufficiency is the most underrated virtue.”
Devries MC らのメタ解析(J Nutr 2018)は、健康成人を対象に高タンパク食(1.5g/kg/日超)と通常食を比較した28のランダム化比較試験を統合した。eGFR、血清クレアチニン、尿アルブミン、いずれのマーカーにも有意差は出なかった。
つまり、慢性腎臓病(CKD)の既往がない健康成人にとって、高タンパク食が腎機能を悪化させるという主張のエビデンスは、現時点では弱い。「腎臓を壊すから取りすぎ注意」という助言は、CKD 患者の文脈で生まれたものであって、健康成人にそのまま適用される根拠は乏しい。
知足者富。
老子が「足るを知る者は富む」と書いたのは紀元前の中国である。それから2,400年、Morton 2018と Devries 2018が示したのは、栄養学的にも同じだった。タンパク質は1.6 g/kgで身体は満ちる。それを超えても、身体は悪く言わない、ただ、利用しないだけ。
Morton RW のメタ解析(BJSM 2018)が示した、筋合成の頂点は1.6g/kg/日。それを超えた分は、筋肉に取り込まれない。代わりに、エネルギー源として代謝されるか、尿素サイクルを通って腎臓から排泄される。腎臓が「壊れる」のではなく、淡々と仕事をしているだけである。
だから、2.0g/kgを摂取することの「害」は、健康成人では、ほぼゼロに近い。むしろ、その分のお金がもったいないという、コスパの問題のほうが大きい。プロテインパウダーは安くない。1.6で身体が満ちるなら、それ以上は、文字通り「お金を尿に変えている」状態である。
ジムのカウンターで、知人がプロテインバーを2本買って、シェイクと一緒に飲み込む。彼は身長170センチ、体重70km。1日のプロテイン摂取は、たぶん、2.5g/kg。それで筋肉は同じ速度でしか増えない、と説明したら、「お前、夢を壊すなよ」と笑われた。
Devries の救出は、健康成人の話である。慢性腎臓病(CKD)ステージ三以上、シスチン尿症などの腎結石形成リスクが高い疾患、特殊な代謝疾患を持つ人では、高タンパク食は腎機能の進行を加速させたり、結石を増やしたりする可能性がある。これらの人々では、医師の管理下でタンパク質量を調整する必要がある。
また、健康成人でも、極端な高タンパク食(3g/kg超)の長期摂取に関する安全性データは、まだ限定的である。1.6〜2.2g/kgの範囲が、現時点で最もエビデンスが厚い。それより上の領域は、未知ではないが、未知に近い場所である。
“Less, but better.”
プロテイン摂取の設計は、Morton と Devries を組み合わせると、シンプルになる。健康成人で、レジスタンス・トレーニングをするなら、1日1.6g/kgを上限として置く。それを3〜4食に分けて、1食20〜40g。シェイクは食事で足りない場合の補完。それで充分。
減量期や高齢者では、もう少し上(1.8〜2.2g/kg)が推奨されることもあるが、それも上限はある。3g/kgを超えた領域は、エビデンスが薄い場所であり、コスパも悪い。「もっと飲めばもっと筋肉が増える」という直感は、ある点までは正しく、ある点で完全に止まる。
老子が「足るを知る者は富む」と書いたのは紀元前。Devries と Morton が2018年に示したのは、栄養学的にも同じだった。1.6で身体は満ちる。それ以上は、お金を尿に変えているだけ。今夜のシェイクを、ひと匙減らす。たぶん、それで充分である。